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【懐古日記】午後10時、地元のセブンと千円札 / 煙男のこと

16歳、ニコ動で唯一お気に入りにしていた歌い手とインターネットの海で偶然の再会を果たす。彼は自身のアカウントを綺麗さっぱり消してしまっていたから、とにかく嬉しかった。

 

 

 

 

 

450フォロワーくらいだったそのアカウントは、以前の名前とはまったく異なる名に変わっていて、ユーザーネームどころかアカウントそのものが数字と小文字のアルファベットからなる質朴すぎるものだった。

 

 

どうやら個人名義での歌唱動画のアップロード活動ではなく、バンドを組んで細々とアルバムを出している様だった。

 

当時、バイト禁止の高校に通う一年生だった私は同級生の目を掻い潜って近くの飲食店でバイトをしていた。

 

駿台模試や部活の有段試験、クラスメイトと放課後にファストフード店で飲み物を頼めることをギリギリ賄える程度の収入だったが、1000円だけ何とか捻出できたのでFANBOXを通して匿名で送金した。夜10時のセブンイレブンで。

 

 

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18歳、通信高校のTwitterで出会った友人たちとある日宇都宮でオフ会をした。

 

そこに来ていた一人、ハルカくんの事を4年ぶりに不意に思い出した。

彼はもともとSlackにアクセス可能だがどこにも告知しない部屋を持っており、詩を書いて不定期に更新していた。

 

 

私の二個下の友人がまずその部屋をかなりの難易度を突破して発見し、私も部屋番号を教えて貰って入室した。

 

 

詩を連投する行為について世の中は結構冷笑チックに笑うのをよく目にする。その理由の推論はできるが、私個人としては自己の発露が「言語」というツールを使うことで不必要に色眼鏡がかけられる気がしている。

話が逸れた。

 

 

ハルカくんについて話す上で、どうしても彼のあまりに特異的(奇異と言っても良いかもしれない)な詩の内容について触れなければいけない。

 

 

消去法で言うと、まずケータイ小説チックでは全くない。人間の感情や感性の「あわい」を情緒的に詠ってる感じでもない。

もっと色数は少なくて、私の中では赤と黒が彼の打ち込む言葉の色だと結論づけた。

起承転結もほぼ関係ない。4つ揃ってなくても何かがあって→何かが起こる(思うとか)は介在してる創作物が世の大半な気がするけれど、ハルカくんの詩を遡って全部読んでも彼の思想とか好悪とか倒錯とかもまるでよくわからなかった。

 

狙って生み出した昏さや陰鬱さ(そもそも創作というのは自分のゴールポストを定めて狙う行為だけど)ではなく、無作為にワードを抽出して「ひたすら本当に良くない感じがする」以外の共通項のない羅列の剥き出しの塊の様だった。

 

4人で宇都宮に集合して、見た目も雰囲気も境遇もより一層意味不明に見える我々で、バスに揺られて洞窟に行ったり、さして当たりの店ではない餃子屋で昼食を摂ったりした。

 

 

参加したうちの二人とは今もそのオフ会以前からもかなり仲が良いのだが、ここ一週間の間で彼らから別個にハルカくんの名前を4年ぶりに出されて、私も振り返らざるを得なくなった。

 

 

 

 

あの日見たハルカくんは結構背も高く、黒の分厚いロングコートを着てもなお痩せて見えた。

そして全員が口を揃えて言うけれど、とにかく容姿が際立つ端正さを持っていた。

 

 

 

 

 

ハルカくんの詩は最低レベルの語彙で感想を述べると「ひたすら怖い」のだが、現実にハルカくんを見た時に全く別の種類で、だけど同じ量の「とにかく怖い」を感じた。

 

ハルカくんは人間のカタチをした空洞で、何かに夢中になったり嫌悪感を抱いたり、逆に恋愛をしたりといったある種のフィールドの機微にまるで影響されない様に見えた。人や世間を厭うことすらなくて、ただひたすらに全てが彼を透過していくみたいだった。

 

 

(何一つ彼の実存とか実体に触れたりアクセスできる物とか人が見当たらないのに、彼自身から放出される余りにも激しい苛烈な言葉の数々がカラクリの全く不明瞭な錬金術に見えたのだ。)

 

 

 

あの日、何本も電車を乗り継いで茨城の海辺の街に帰って行ったハルカくんはまだこの世界にいるのだろうか。